騒音に耳を塞いで [ss]
本編
 ヘレン・ケラーってこんなに大変だったんだって。

 これ以上の非現実的としか思えない何もない世界にいたんだって。

 考えてみたら。

「事故なんて人間ができる一番簡単に人生を狂わす出来事ね」

 自嘲気味な笑い声をあげて凪[ナギ]は云った。左眼をあけて傍らの男を凝視する。

 男は少しだけ唇の端をあげて微笑んだ。

「お嬢様…」

 笑顔を崩さずに言葉を濁した。どう伝えればいい。聴覚は完全に戻らないと医者がいった。凪も勘付いているだろう事実に男は目を背けたくなる。

 ――自分の責任だ。
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