もう一度 笑って
黒塗りの車の横で朝倉が、あたしに片手をあげてから車に乗り込んだ
ボディーガードが、朝倉の乗った後部座席のドアを勢いよく閉めた

窓から、朝倉の横顔が見えた

『出せ』
そう口が動いたのがわかった

朝倉が遠い世界に行くんだ
あたしの知らない場所へ


朝倉の視線が動いた

朝倉の目とあたしの目が絡み合う

そして朝倉の口が素早く動いた

『好きだ。俺と付き合え』

朝倉がニィッと笑った瞬間、車が走りだした
すぐに朝倉の顔も消えた


ちょ……な、何よ!
何なのよ

何、勝手にキスをしてるのよ

しかもあの画像…あいつの携帯に

…て待ち受け画面になんかしないでよ

誰かに見られちゃうじゃないのよ!

「さいってぇ!」

あたしは唇を腕で拭いた


あの画像、絶対に返してもらう!
…てか、今度会ったら、削除してやるんだ

「朝倉、ごめん
そしてありがとう」

朝倉の乗った車が走り去った道路を見つめて、あたしは呟いた

朝倉がいなかったら、あたしはきっと自分の人生を諦めていたよ

好きでもない男と結婚して、ずっと後悔ばかりして
文句ばっかり言っている女になっていたと思う

「あたし、幸せになるから
朝倉よりもずっとずっと幸せな生活を送ってやる」

あたしは口元をゆるめて微笑むと、青い空を見上げた








   『もう一度 笑って』 
          終わり
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