桃色ドクター
私達はそれ以上のことは何もしなかった。
ただ、抱きしめてくれただけ。
車で家まで送ると言われ、車に乗った。
甘い匂いがした。
綺麗な車の中を見ていると、婚約者の顔を想像してしまう。
「正直に答えて。平野さん、彼氏いるんでしょ?」
彼氏と言えるかわからない相手と同居していると答えた。
瀬名先生は笑った。
送ってくれると言ったのに、エンジンをなかなかかけない。
「腰・・・使うなよ。できれば一生・・・」
瀬名先生はそう言った後、ため息をついた。
「そんなの無理か・・・ でも、悔しいな。俺のものにはできない」
「今は腰を使う相手もいません。瀬名先生こそ・・・」
瀬名先生はやっとエンジンをかけ、話し始めた。
車の中が温まるまで、瀬名先生は私の手を握っていた。