幼なじみ〜first love〜

―――……


あたしは、一人夜の砂浜にたたずんでいた。



ねぇ…いま


蒼の声が聞きたいよ




少しかすれた低い声で


あたしを呼んで欲しい




あたしはしゃがみこんで、砂をギュッと掴んだ。




――…ザザザーッ…ザザザーッ



波が打ち寄せては、消える。







“6年間も…想いを抑えてきたのでしょう?”


“忙しさに身を任せて…”




この前話した愛空のお父さんの言葉が頭を離れない。







蒼……あなたはいま


誰を愛していますか……?




砂を掴んでも、指の間からこぼれ落ちてく。




子供だったあたしたちが

いつしか大人になって



この手から…こぼれ落ちたモノは何…?



大切な人たち

大切な想い



たくさんのこぼれ落ちたモノ…


大切なモノは

この手から離れていった…




ねぇ…蒼。



逢いたい…蒼…


抱きしめて欲しい…







あたしは


蒼のこと…

あなたをずっと愛してる……




“大人になったいま、あの頃よりもっと上手に愛せるのではないですか…?”




いまならきっと…


ううん。

いまからもう一度…始められますか…?




「愛してるよ……―――」



ひとり呟いた声は、波の音にかき消された。




砂に溶けていくあたしの涙は、とめどなく流れ落ちる。




“大切なひとを失うことは…とても哀しいものですよ”




運命は変えられなくても


逢いに行こう




同じ空の下で生きている


あなたに………




もう一度……



夢じゃなくて

逢いたいから……―――。
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