大切な時間
《太一》
 「くそ…」
 普通にしてればこんなことにならなかった。俺は自分を責める。今日、花火大会に来る前にアキとはぐれてしまった。もちろんそれはふざけていたとはいえアキを置いて行った俺たちが悪いわけで。
 とにかくアキが心配だ。アキが一人で泣きそうな顔をしているのが思い浮かぶ。

 その日は突然だった。
 コンビニに雑誌を買いに行こうと外に出たら、下に女の子がいた。すぐにわかった。小学校を卒業すると共にここからいなくなった幼なじみだった。
 彼女は携帯をいじっていた。何故ここにいるんだろう。俺は疑問に思いながらも、嬉しくて昔のように柵にもたれて彼女を見ていた。
 いつも二人この位置で話していたのを思い出す—

『太一好きな人いるんでしょ?言っちゃえよ』
『言うかよ、お前じゃないことは確かだ』
 そんな話を飽きずに毎日のようにしていた—

 すると彼女は携帯をこっちに向けた。

「何やってんの?」
 と聞くと、

 カシャ

 …今、写メ撮ったよな?
 俺はその意味のわからない行動でつぼを突かれ、腹を抱えて笑った。
「久しぶりに会ったら変な人度が増したんじゃない?」
 俺の言葉を聞いて呆然としていた彼女は途端、一気に言葉を捲し上げた。そして最後に

「私の事覚えてるじゃん!」
 と言ったのだけ聞こえ俺はすぐに反論する。

「忘れるわけないじゃん」
 彼女は一瞬泣きそうな顔をしたけどすぐに笑顔を向けた。

 変な奴。だから楽しかったんだよな。俺はそれから階段を降り彼女の側まで行き、コンビニまでいかないか?と誘った。そこには俺の幼なじみ、アキがいた。

 …小さい。
 俺の目の前にいるアキは想像より遥かに小さかった。昔は俺が首を上げていたのだが。…かわいそうに、若いのに縮んでしまったのだろうか。
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