女子高生夏希のイケメン観察記
2.イケメン花屋は「トキノヒト」
学校に向かうのとは逆方向の電車に乗って、数駅を過ぎると一戸建ての多いエリアに突入する。
都心と比べて空が広くなるその駅で、私は降りる。

駅からさらに田舎の方に歩いていく。
その、どう考えても集客力が悪そうな場所に、例の花屋はある。

え?
私がどうしてそんなマイナーな花屋を知ってるかって?

雑誌でちらりと見かけた店長に惹かれたからに決まってるじゃない。
イケメン観察が趣味なんだから、電車でいける範囲で見かけたイケメン情報は、漏れなくチェックする方針なのよ。

当然、校内のイケメンのことなら、私が一番詳しいに決まってるし~。


うわ!

私は店を間違えたんじゃないかと思って、思わず脚を止める。

だって、小さな花屋さんの外にまで女性たちが群がっているんだもの。


何?
今日は、この花屋さんのセール日だったりするわけ?


私は、人垣をかいくぐって中を覗いた。

忙しそうに花束を作っている真壁店長と目があった。
にこり、と。
彼はとても人懐っこい映画を浮かべた。
色素が薄くて茶色く見える髪がさらりと揺れる。男性にしては長めのその髪は、今は後ろに括ってあった。そこからこぼれている横髪が、店長の手際の良さに誘われるように揺れている。

「遅いよ、君! 早く手伝って」

ええええ?
私、ここの店員でしたっけ?
そうにしか思えないような、言葉に思わず目を見張る。

「早くっ」

優しい口調ではあるが、拒否権は無さそう。

私は恨めしそうな女性たちの眼差しをかいくぐって、カウンターの中へと入る。


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