女子高生夏希のイケメン観察記
「奏も偉くなったな」

出来の悪い子供を褒めるような口調で、久遠さんが目を細めた。

「……は?」

思わず疑問系の一語を投げつけた私を一瞥する。

「奏はつい数ヶ月前、花屋のスタッフに労働基準監督署に訴えられそうになったんだぞ。仕事を強要しすぎて。
 その反省が、ちゃんと活かされていて、スポンサーとしてはほっとする」

……だまされてますよ、久遠さん?

私が口を開こうとする、僅か0.1秒前。

「そうだよね。
 なっちゃんにとって、僕って、良い雇い主だよね?」

と、有無を言わせぬ脅迫めいた言葉が飛んでくる。

……怖いんですけど。

その、柔らかい口調と、蜂蜜で作ったような笑顔。
こんな人にこんな声を掛けられたら、どんな女性だって腰がくだけちゃいそうな。
何もかもがそのくらい極上、なのに。

私の頭の中には警告音が鳴り響いてしまう。

……コイツに逆らうと、危険。


うう、仕方が無い。
恐怖に負けた私は、密告を諦める。

「ええ、奏さんの下で働けて、幸せです」

……ええん。
私が死後、閻魔様に舌を抜かれるとしたら、原因は絶対に奏さんですっ。
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