封印せし記憶


どことなく残念そうに見える静菜。

和弥はそんな静菜を見てなぜか、いつまでもここにこうして座っている自分が急に滑稽に思えてきたのだった。

気分が悪い。
今にもそう口にしそうな顔になった和弥は、さっと立ち上がり歩き出した。

「和弥…?」
「帰るっ」

怒ったように短く返した和弥は早足で歩き去った。

それを受けて、困ったような顔になった静菜を誰も知らない。
静菜にとってそんな顔をするのはないに等しい。
あったとしてもそれは誰かを想ってのことではない。
誰かの為に感情が動くなど、今の静菜にはとても難しいことなのだ。


静菜があんなふうに誰かに質問をしたことは今までなかった。
誰かと何かをしようなんて考えたこともない。
自身の隣にあった気配がなくなったことを寂しく感じたこともない。


静菜はしばらくじっとそこに座っていたが、いつもの微笑みを浮かべると、ゆるゆると自宅へと足を運ばせた。


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