ベイビーベイビーベイビー
 

 封を開けると、すぐに懐しい文字が彰人の目に飛び込んできた。

 それは同じく若草色をした、しかしとても簡素な一筆箋に書かれていた。


 彰人は封筒の中からその一筆箋だけを器用に引き抜くと、ぶつぶつと声に出して読み上げ始めた。


「前略、彰人へ

 あなたこの間、来月こちらに帰る
 と言ってたわね?
 その際に、あなたに会って頂きた
 い方がいます。

 その心積もりで、出来ればスーツ
 を一揃い持って帰郷して下さい。

 その方は母さんのお友達のお友達
 のお嬢さんで、とても気立ての良
 い方だということです。

 あなたにも、そろそろ身を固めて
 もらわなければ。

 日にちと時間が決まったら連絡し
 ます。

            草々   」




「なんだ、こりゃ」

 書簡の厚みに反して母親からのメッセージは驚くほどに短く、伝えるべき用件だけ書かれていた。

 息子の返事を聞く気など、毛頭ない様子であった。

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