堕天使の涙
交代
過去に戻る事など出来ないと思っていたが…。

今のこの状況は何か与えられたチャンスなのでは無いだろうかと、そう思わずにはいられなかった。

目の前を足早に歩く青年に続き、小走りに標的を追った…。

もう心の中に迷いは無くなっていた。

頭の中ではどこで、どうやってというような考えしか浮かんで来ない。

とにかく人気の無い所に誘導しなくてはならない。

どうすればそんな事が出来るのだろうか?

考えがまとまらない内に男はとある建物の中へと消えて行った…。

建物は…五階建てのビルだった。

スーツ姿から考えるに…勤務先に入っていった様子だ。

呆然と立ち尽くし、ビルを見上げる私に青年が話し掛ける。

「これじゃあ無理だね。」

確かに、この状況から男を連れだし殺す事など出来るはずがなかった。

それなら一体どうすればいいのか…。

「相手、代えれば?」

青年はもっともな提案をする。

やはりこの際違う相手に替える方が無難だろうか。

しかし、一度決心したものを今から変更するとなると、なかなか気持ちが固まりそうには無かった。

やはり人を殺すなどと…今更何をというような事まで頭に浮かんでは消え、また更に浮かんで消えていった。

とにかくもう五千万円を手にせずには済まされないと心が欲していた。

私は本当に五千万円を受け取ったら息子に届けるのだろうか…?

本当は自分の社会復帰の為に使いたいのでは無いだろうか。

まともな家に住みまともな服を着てまともな食事をしたいという欲求に勝てるのだろうか?

何度も息子の為にもう一度と思い続けて来たが…。

私は何と欲深い人間なのだろうか…。

頭が割れそうに痛む。
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