堕天使の涙

疑惑

ひょっとして、私が人を殺した後警察に駆け込んだりするつもりでは無いだろうか?そもそもこの男を信用する根拠など何も無いのだ…。

温度の上がり過ぎていた頭を冷やさなくてはとあらゆる可能性を探ろうとする…。

騙されていると考える方が自然なのではないだろうか…。

金が目の前にあるならば、彼が逃げようとしても何とか捕まえ奪う事も出来るが、もしもコインロッカーの鍵さえ持っていない場合は非常に不利な状況になるだろう。

しかし…、この期に及んでやはり辞めるという決断はもう出来そうには無い。大人しく彼に従うしか方法は無いのかもしれない。

「分かった、信用する…。」

どこか目が虚ろなこの男 、無論とりあえず信用する振りをするだけだが。

しかし、一旦冷静になってしまうとやはり人を殺すという事に対し、ためらいがふと顔を出す…。

以前から殺してやりたい程に憎んでいた人間でも居れば話しはさほど難しい事も無いのだが。

再び歩き出しながら誰か憎い人物はいなかったかと振り返ってみる…。

「以前の」人生なら何人か居たような気がする。勤務先の…部長…課長…事務員…。とは言え、殺す程にまでは憎んでいなかったが。だいたい、もう以前の人生の事は今更蒸し返したくも無かった。

そうなって来ると、今の生活の中で憎い人物はと言う事になるが…。

人との接触を極端に嫌うこの生活は、特に人間に対しての感想を持たせない…無関心になるものだ。何度かコンビニの店員に水を浴びせられたりした事もあったが、怒りという様な感情は起こらなかったように思う。

誰か適当な人間は居ないものか…。

いつからか雨も止み、晴れ間から光が差し込んでいた。

「誰を探してるの?」

痺れを切らした様に男がぽつりと漏らす。

もう四十分は歩いたであろうか、私も決意を固めなくてはと思い始めていた頃だ。

「あの男にする…。」

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