人魚姫の涙~先生への想い~



「あ、間違えた・・・」



みんなが帰って静まり返っている教室で、キーボードで伴奏の練習。


合唱祭で伴奏をすることになった私は、なるべく早く暗譜しようと必死なんだ。




家にピアノなんてないから、学校での練習だけが頼り。


音楽の先生にも「家で練習できないと厳しいよ」と言われたけど・・・



絶対にやりたかった。



昔・・・


お父さんの誕生日に弾いた、『HappyBirthday』を思い出したから。


お父さんは何度も『すごいね、本当にはるちゃんはすごいね』とほめてくれたんだ。



だからピアノだけは、ずっと続けてた。



でも



今の家に引っ越すとき、ピアノは売り払われた。


もちろんお母さんの独断で・・・。



そのときかなり味わった絶望と


一生許さないという憎しみも一緒に思い出してしまう。




「・・・あれ、また間違った?」




なかなか昔の感覚が戻らなくて、指が動かない。


本番までに、なんとかしないと・・・。




先生に『よかったよ』って言ってもらえるように頑張らなきゃ。




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