地球最後の24時間
「大丈夫だって、病気は持ってねえよ」

 男は心外だという表情で言った。そりゃそうだろう。誰だって親切をそんな形で返されたら嫌な顔のひとつも見せるもんだ。

「いや、そんなわけじゃないよ……」

 そんなわけだが。

「ま、俺だって可愛い女の子の飲みかけのほうが嬉しいもんだ。あんたの反応は正しいっしょ」

 そう言うと男は風貌に似合わず、くすりと笑った。

「すまん、じゃあ遠慮なく……」

 ぬるくなってはいたが、今まで飲んだなかでは間違いなく最高に美味い水だった。間断無く喉を鳴らして一気に飲み干した。

「……っあー、うまい!」

 体がいかに欲していたかが分かる。五臓六腑に染み渡るとはまさにこのことだろう。男はそんな俺を見て嬉しそうに笑った。

「ありがとう。ホントに助かった」

「たかが水っしょ」

「されど水だ。いまの俺にとっては」

「そりゃ良かった。俺もあんたにやった甲斐があるし。ところで……」

 男の目線がつま先から頭へと移動する。

「随分ボロボロだねえ」

 そう言われて改めて自分の服装に目を配った。
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