空の少女と海の少年


「──始まったのね。」


グラスの中の氷が溶けて
カランと涼しげな音がする


学生寮15階にある
カフェ¨free style¨の
カウンター席に座る華山校長は
そう言ってブランデーを口に運んだ

カウンターの向こう側では
いつものように、マスターが
丁寧にカップを磨いていた


「この戦いの未来が、あなたには視えるのでしょう?」

「ふふふっ。視えてたらわざわざここに来ないわよ。」


校長はクスクスと笑うが
すぐに真剣な表情になって
光の消えた窓の外を見た


「……もしもあの子達が負けてしまったら、この世界はどうなるのかしら。」

「それは、あなたが昔視た未来が実現するでしょうね。」


マスターの言葉を聞いて
校長の脳裏には幼い頃に視た
未来の映像が浮かんだ


太陽光の差さない暗い世界

草花は枯れ果てて、人がいない世界

空は闇に覆われて
海には濁った水だらけ

魔物さえ住めない
生命が消えた世界


視る度に吐きそうになる未来

しかし、そんな未来が
見えなくなったのは17年前


変わりに視るようになったのは
空を操る少女と
海を操る少年の姿


「彼らを信じましょう。未来を変えてくれると、世界を救ってくれると。」


優しく微笑んだマスターに
校長も頷いて微笑んだ


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