空の少女と海の少年


周りを見渡すが誰もいない

下の方から上がってきた小さな泡が
春の目の前で弾けて消えた

春が下へと視線を落とすと
大きな泡の中に誰かがいた


「……うそ…なんで…?」


春は目を疑った

ここにいるはずのない者がいたから


艶やかな腰まである漆黒の髪
髪と同じように漆黒の羽根


「リー…ル……?」


疑うように春が名前を呼ぶと
彼女は顔を上げてニコリと笑う


『はじめまして。そう、私はリール。』


何か言おうにも言葉が出てこない

リールの入った泡はフワリと上がり
春の前まで来ると春を包み込む

その泡が嫌なのだろうか
春の体に巻き付いていた大樹の根は
泡から遠ざかっていく

完全に泡の中に入った春に
リールはまた、ニコリと笑う


春は目の前にいるのが
本当にリールだと信じられなかった


「きれいな目……。」

『ありがとう。この瞳はね、誇りなんだ。』

「誇り?」

『この瞳だけが、私を天使だって証明してくれるの。』


そう言って笑ったリールの瞳は
春の知っている血の紅色でなく
星のようにキラキラと輝く黄金の瞳だった


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