スタッカート





「おい、伊上」


朝のHRが終わり、始業まで眠るつもりで机に突っ伏していると、背後から、吹奏楽部部長の佐伯琢磨の声が聞こえ、私は顔を伏せたまま心の中で小さくため息をついた。

体を起こして振り返ると、相変わらず不機嫌そうな佐伯。

私の目の高さまでイルカのキーホルダーのついた鍵を持ってくると、はやく取れ、とでも言いたげな顔でこちらを見下ろしてきた。

ありがとう、と呟くように言って鍵を受け取る。

いつもの佐伯なら、ここで舌打ちでもして席に戻る。

けれど、この日は違った。


いつまでも、私の前に立ったまま動こうとしない。
眉間に深い皺を刻んだまま、私の机に両手をついて、何かを探るように見つめてくる。

「…なに?」

そう言って首を傾げ、眉を寄せて見つめ返すと、重くため息を吐かれた。


佐伯は少しだけ俯くと、きょろきょろとチョコレート色の目を泳がせて、たどたどしく言葉を紡いだ。


「…この前、お前のところの、ピアノ教室の発表会、見に行った」


驚いて目を見開くと、佐伯は顔を真っ赤にして声を張り上げた。


「ち、違うからな!別にお前のピアノをききに行ったんじゃない!」

「……………。

…兄弟が、同じピアノ教室なの?」

そうきくと、ぶんぶんと勢いよく首を縦に振って。
少しの間押し黙ると、口を開いた。



「……それで、ついでに、お前のピアノも聞いたんだ」
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