スタッカート



佐伯は顔を真っ赤にしたまま、ぼそぼそと続ける。


「一応俺も十年以上ピアノはやってるけど…その、」


そこまで言うと、顔を更に俯かせて一呼吸おいて、吐き出すように言った。



「お前の…ピアノ………良かった」



……思わず。



口元が、緩んだ。




「ありがとう…」


そう言って佐伯の顔を見ると、目と目が合った。

佐伯は、一瞬目を見開くと、またすぐに真っ赤になって怒鳴るように言った。



「…ちょ…調子に乗んなよ!?」




何だか、そんな佐伯は、いつもの佐伯らしくなくて。

自然と笑いがこみ上げてくる。


いつからツンデレキャラに、と心の奥で思いながら肩をふるわせて笑う私に、佐伯は眉を吊り上げて怒り、ずんずんと音が鳴りそうなくらい大またで、自分の席に戻っていった。
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