スタッカート
ヒナは、相変わらずごめんなさい、と繰り返すばかりで、
ビルを出てから、家まで送る、というヒナを親に迎えに来てもらうから大丈夫だと、納得させるのに一苦労した。

どこも痛くないし、全然平気だと何度もヒナには言ったけれど、正直なところまだ痛みはひいていなくて、私は我慢して笑うのに一生懸命だった。

隣にいたヒナが、駅に向かうタクシーに乗って去っていく姿をぼんやり眺めながら、降り止まない雨がアスファルトの地面を激しく叩く音をきいていた。

寒さに身震いして、小さくくしゃみをする。

迎えに親を呼ぶことはできない。

私の為に、寝る間も惜しんで働いて、仕事で疲れて寝ている母を、迎えに呼ぶなんてできない。


私は今日、ヒナにたくさん嘘をついてしまった。




ズキズキする体の痛みに耐えながら、そのまま激しい雨の中に足を踏み入れた。


大粒の雨が、髪も服も手も足も濡らしていく。




…どれくらい歩いたのか。

寒さに、だんだんと意識が薄れ視界がぼやけてくる。
指先の感覚が無くなってくる。





しかし

突然、容赦なく私の体を叩いていた雨が止んだ。








「お前、馬鹿か。」





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