スタッカート


―…誰。

そう言われてみると、なんと答えればいいのか分からない。

てっきり部室には恵さんか勇太さんか―とにかく、この軽音部で私を知っている誰かがいると思っていた私は、目で部屋の中を探してもその姿が無いことに正直焦ってしまい、深い落胆が心の中にどすんと落ちてきた。


この問いかけは名乗れって意味じゃない。
自分が「何」なのか言わなければならない。

分かってはいるけれど、その「何」を私は持っていない。


関係は、ただの「他人」でしかないのだ。


だからもう、それについて何も言うことができない私は、その問いかけには答えず、代わりに質問で返すしかなかった。


「―トキ、居ますか?」


その言葉に、男の人がふ、と口端を片方だけ上げて意地悪そうな笑みを浮かべる。


「質問に質問で返すなって習わなかった?」


こちらを見つめてくる淡いブルーの瞳と目が合う。

まるで獣のようなその冷たい輝きが、心に鋭く刺さる。
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