スタッカート
―あの、トキが。
―あれが、トキの。
そんな言葉が、あちらこちらから聞こえた。
訳が分からず怪訝な顔で周りを見渡すと、私の前に立つ銀のピアスの男の子が、小さく笑って言った。
「“東子”の事は、俺らの中では結構な噂になってたんだ。夜の蝶だとか、人妻だとか」
「蝶…!?ひ…人妻!?」
何で!?
驚きで私がカッと目を見開くと、更に愉しそうに目を細めて男の子は続ける。
「あの人間嫌いのトキの「お気に入り」なんだ、って」
―お気に入り?
…絶対に嫌われている部類の筈なんだけど。
首を傾げる私に、男の子は尚も口元に笑みを浮かべながら大袈裟なため息をつき、笑いをかみ殺すように肩を震わせ、言った。
「トキも、大変だなあ」
―その声は、可笑しくて可笑しくて堪らない、というような
愉しげな、響きだった。