You or someone like you.
早朝は霧雨で
大きな黒い傘を差したDとおんぼろピンク自転車の私。なんだか三流のおとぎ話にでも出てきそうだ。Dはメアリー・ポピンズとスナフキンの子供、私は黒い半ズボンを履いた街ネズミのようだった。

ワクワクしていた。子供の頃から日の出が大好きだった。日の出は、新しい日への素晴らしい冒険だ。そして、旅の相棒には、絶世の美男子なら申し分ないのだ。

とりあえず話し続けた。私は顔見知りなので知らない人と二人きりになると、よく話す癖がある。沈黙が苦しいからだろうか?冒険が終わってしまうのが残念だから?
言葉で時間を埋め尽くそうとしているのだろう。

世界が濃紺から薄グレーに変わる時。
疲れきった体と肺一杯に、ブルックリン高架下の汚染された空気を吸い込む。
澄み切った冷気が、体中の細胞を活性化してくれる。
栄養か毒か、どちらの要素も持った街。

別に目的があったわけではなく、誰かと一緒に朝を迎える贅沢を味わいたかったんだ。
とりとめもない話をし続けた。冗談を言い合って時間を潰した。
私達は何かに向けて歩き続けていた。言葉にできない何か。答えが出るその瞬間まで共犯者は目で探り合う。
公園入り口にあるカフェの手前に辿り着いた時には、空の濃灰色は薄水色へと溶け始めていた。しとしと雨の降る朝の太陽は、隠れて上る。目的を失ったまま一つ傘の下で信号待ちをしていたら、Dが屈んでキスをしてきた。
起こりそうで起こらなかった事。起こらないはずだと思っていた事。恥ずかしいような。してやられたような。予測すべきだったような。試しにやってみたんじゃないか?と思ったり。半信半疑で。頭の中は溶けかかり、
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