つま先立ちの恋
「フー…」
午後5時半過ぎ。
会社から出てきたフーを見つけた瞬間、私は頬杖ついていた手のひらからゆっくりと顎を持ち上げた。そのままフーを目で追いかけていく。
「こっちにくる…フー!」
勢いよく立ち上がったらイスが転がりそうになった。あぁ、でもそんなのどうだっていい!
フーだ、フー。
本物のフー。
「へっへー、今日は私の粘り勝ちだね!」
久し振りのフーを目の前にして、私のテンションは一気に急上昇。ああ、歌でも歌いたい気分!
フーに見せ付けるようにピースサインをすると、その2本の指を折りたたむようにフーの手のひらが私の右手を包み込んだ。ドキン、と耳の奥で音が鳴る。
「…くだらん真似はよせ。これ以上俺を煩わせるな」
フーがその手を離し、そのままポケットに入れるまで。私はフーの手の感触に捉われていた。
でも、そんな夢心地もフーの一言で弾ける。
「来い。柏木に送らせる」
「だめ! 帰らないで!」
たった今、来たばかりの道を歩き出そうとしたフーの腕を両手で掴んだ。