つま先立ちの恋
「……………孫?」

シロ先生に気付かれて、慌てて頬をこすった。何だって涙なんか出てくるんだろう。自分で自分がわからない。だけど、

「焦ったらいかんで、孫。そんなに急がんでも、人はいつか大人にならんといかん日がくるんや」

シロ先生のその言葉に、私は無意識のうちに口にしていたのだと知る。

「でも、先生。私は早く大人にならなきゃいけないんです。でないと…」

「全く、ほんまわかっとらんなぁ。空っぽの大人になるよりは中身がぎゅーっと詰まった子どもの方がマシなんやで?」

苦笑まじりのシロ先生。前へ進んでいた足が自然と止まる。

「今のうちにしか経験できんもんがあるんやで、孫。それを積み重ねていくことが大人になるっちゅうことや。

えぇか? 今、孫がおる場所は大人になったらもう取り戻せぇへん、一回こっきりの特別なモンや。あんまり先ばっかり見とったら足元にある大事なモン、見落としてまうで」

あまりにも真っ向から言われて私は少し面食らった。それからまたシロ先生は笑って、

「ま、孫がそう言う気持ちもわからんでもないな。それこそ青春や。全く、見とるこっちは眩しすぎて目ぇがくらむわ」

そう付け加えた。私はどんな顔をしたらいいのかわからない。

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