東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~
“アレが夢だったらいいのにな”と思いつつ、後ろ髪に恐る恐る手をやってみる。

そして“ふぅ~…”と大きなため息をついた。

残念ながら夢じゃなかった。あたしの髪の毛にベッタリとガムが付いたのは紛れもない現実のできごとだった。

指先についたガムの断片を、ねちゃねちゃともてあそびながらどうしようかと考えた。

もしロングヘアーにしているせいで、好きでもない男子から勝手に好きになられちゃうんだとしたら、あたしはヘアースタイルを変えたほうがいいのかもしれない。

よし、卒業しよっ。

ちょうどいい機会だし、ロングヘアーは今日で卒業しよう。

おすもうさんが現役力士を引退するときに“断髪式”っていうのをやるけど、あたしのヘアーカットもソレと同じだと思う。


バッグの中から“くちばしクリップ”を取り出したあたしは、ガムが付いた後ろ髪を隠すために髪をアップにして、トイレを出た。


その足で、今夜0時に死ぬあたしにとって、人生最後のカットをしてくれる美容院を求めて彷徨うあたし。

10数分後、たまたま歩いていた歩道の脇に、ほぼ全面がガラス張りで、太陽の光がポカポカと降り注ぐ、ひだまりのような美容院を、ようやく見つけることができた――――
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