ふしだらエデュケーション
――マゾヒズム。

被虐性欲。肉体的、あるいは精神的苦痛を与えられることによって性的快感を得る。

一般的に変態性欲としてカテゴライズされる、ある種正統的パラフィリア。


そう、彼をつき動かしているのは、マゾヒズム以外の何ものでもない。

つまりは、私に叱られたいという欲求の表れ。

みんなの前で説教されるという屈辱を味わいたい、私に屈服して辱しめを受けたい、彼はそう願ってる。

その年頃からマゾヒズムに目覚めるなんて、末恐ろしいわ子だわ田所君。

……彼のあの瞳。

一見して怯えた小動物のような瞳だけれど、そこには嗜虐を渇望する光が宿ってる。

私の目はごまかせないのよ、田所君。


「……ダメじゃない田所君」


フルスイングで彼の頬に平手打ちを喰らわせる。

かぼそい悲鳴を上げて彼がよろめいた。

うん、いい感触。ミット打ちの効果てきめん。……実用的だわ、ボクササイズ。


「次、忘れたら……もっと酷いお仕置きするからね? 机を隣に寄せて見せてもらいなさい」

「すすす、すいません、気をつけます……」


きっと田所君は、次も教科書を忘れてくるに違いないわ。

だって彼は、何よりも私のお仕置きを求めているだろうから。


さて、不測の事態も無難に対処。

これからが正念場よ、すみれ――。


校庭をにぎわす初夏の蝉たちが、いっそう激しく鳴き声を響かせていた。
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