【短編集】僕達の夏
正確な色が見たくて前髪を上げると、僕とパレットの間に風理の顔が割り込んだ。

群青の瞳が楽しげに僕を見つめる。




「?………え、何?」

「…うん。やっぱり。」

「??」


「泰斗前髪短い方が似合うよ。」



目を丸くした僕に彼女はにこりと笑いかける。




「もう『フィルター』は必要ないでしょ?」


もう、世界に傷付く事はきっと減るから。
僕が『泰斗』として生きるために、


もう『フィルター』はいらない。

「………あぁ、」

パレットの中の群青色を筆に付けて最後の一筆を入れる。


「そうだね。」



描き上がった絵を、風理はまた褒めてくれて、やっぱり照れるくらい嬉しかった。






…―明日は、きっと晃矢も連れて来よう―…


日が暮れはじめ帰路に着いた時に、ふとそんな事を考えた。
あの二人が話す所を想像して、思わず笑いが零れる。



角を曲がると、視界が強烈な明かりに支配されて、僕の意識はぷっつりと途切れた。
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