【短編集】僕達の夏
………
「…ん?
少し縮んだな」
「あらあら、じゃあこの唄忘れていたのね」
霞がかった意識の向こうで、話し声が聞こえる。
優しげな、女性の声が意識を掬い上げるように語りかける。
「孝司。
"梁川 孝司"」
ヤナガワ タカシ…たかし…
そう、これは名前…
誰の?
僕のだ
そう、僕の名前だ。
僕は梁川 孝司だ。
「戻って来い」
ドクンッ
「!」
水中から引き上げられたように唐突に意識ががらりと晴れ、僕は目を覚ました。
顔を上げると、外は夕方らしい。
朱色の光が部屋いっぱいに溢れている。
僕はどうやら荷造りの途中で居眠りをしていたらしかった。
親戚の伯母が僕を煙たがった為にずっと亡くなった両親の遺産を使い一人で暮らして来た生家だが、高校にあがるのを考え資金の問題などを考え、母方の叔母が僕を引き取ってくれることになったのだった。