Butterfly's dream ―自我の境界線―
 人が作り出した技術というのは大別すると「人を生かすための技術」と「人を殺すための技術」に分けられると聞いたことがある。

 橘はふとこの技術がどちらに分類されるものだろうかと考えた。


 だがそれがどちらに分類されるものか結論が出るより先に彼女の助手である樋口の言葉によって思考は中断された。



 「先生、お願いします」



 橘よりも一回りは年上の樋口が恭しくのたまう。

 こういう言い方をするのは樋口の厭味だった。

 樋口からすれば小娘同然の、やっと30の半ばを過ぎた若く美しい女医の下に就かなければならいといけない苛立ちによって発せられた言葉である。

 鬱陶しいことこの上ないが、未だに本質が男社会であるこの業界では気にするのも馬鹿らしい事、と飲み込んだ。
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