『私も歩けばイケメンにあたる♪』

入学してから、二週間目の月曜日。

電車で通う、高校への道のりもだいぶ慣れて来た。
が、
なぜか私の横には、

あいつ

がいる。

私の不快感を最大限に引き出す天才、
水沼清が。


ことの起こりは、今朝の朝食の時間。

おじさんに、高校の様子を聞かれて、不用意に答えてしまった私の一言から始まった。

『友達もちょっとできたし、楽しいです。
でも昨日、電車で痴漢にあっちゃって。

途中の駅で一度降りて、車両を変えたんです。

満員電車なんて、あまり乗ったことないから、まだ慣れなくて、
一度降りるとなかなか乗れなかったんです。

遅刻するかと思って焦っちゃいました。』

私としては、

”痴漢”
にではなく、

”遅刻”
に重点を置いて話したつもりだった。

痴漢といっても、そんな悪質ではなく、
もしかして、揺れた時に、おしりに手が当たっただけ?

という感じだったし、
車両を変えたら大丈夫だったので、
そんなに気にしていなかったのだ。

もちろん、あまりうれしくない経験だったけど、
それより遅刻しないかの方が気がかりで、

今日はもう少し早目に出ようかな、
と考えていたところだった。

参りましたよ~
という意味を込めて、

あははは、
と私は笑った。

でも、その瞬間、パシン、と箸を置いたかと思うと、
おじさんから、にこやかな表情が消えた。

そして一言、今まで聞いたことのない、
強い口調で言い放った。

『清、今日から、ひかりちゃんと一緒に学校に行きなさい。』

私は一瞬たじろいだが、
あいつが、そんな命令におとなしく従うわけがない。

ふざけんな!

の一言で終わりだろう、とたかをくくっていた。

なのに、あいつは、

『わかりました。』

と明瞭簡潔に答えた。








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