クリアネス
「………」
反射的に後ずさりしようとしたら、ひんやりしたコンクリートの壁が背中に当たった。
「……何のこと?」
「ごまかさなくてもいいから」
太陽の光をさえぎるくらい、コウタロウの顔が近くにかぶさる。
そして、強引に唇を奪われた。
クラクラした。
このまま、怒りに任せて奪ってほしい。
力ずくで、あたしを。
不謹慎にもそんなことを考えていたら、コウタロウの唇がそっと離れた。
「……ごめん、俺」
ため息混じりの声。
あたしは靄のかかった頭で、目の前を見る。
そこには、哀しそうに微笑む恋人の顔があった。
コウタロウは少し黙って、代わりにあたしの髪をなでた。
それがあたしの一番好きなしぐさだって知っているから。
「あんまり心配させんなよ」
「うん……」
あたしたちは手をつないで講義室に戻った。