Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜


連れられて入った、謎の横道

"印刷紙業"とか
"何とかビル"とか
地下にあるバーの看板とか


中が見えないくらいに
カットモデルのポスターで埋まった
美容室の二階

スロープになった階段には
木の板に店名が、
白く筆で書いてある『珈琲 CELLO』

チリンチリンと音をたてて、扉が開き
冷房の空気とコーヒーの匂いが、
ゆっくり全身を包んだ



席に着く前
厨房の前辺りを通過するトコで
マキちゃんのアニキは立ち止まる

私には指で
『奥 奥』と言うので
ソファーの四人席

その一番奥の壁側に腰を降ろした


アニキは
おしぼりが入っている
小さな冷蔵庫みたいのから
五本位とって

『ホレホレ。』と
一本づつ続け様に、放ってよこす

夏だから
冷やしてある奴かと思ったら
熱い奴で、少しびっくりした


…五本
拭けって事だよね これは


バチンバチン、袋の端を破って
顔をガシガシ拭く

アニキはその場で
『ウンウン。』と首を振る


カウンターに腕をついて
厨房の主と、話す
笑い声が聞こえて
それが女の人だとわかった


…急に少し
アニキの声が低くなって
怖い顔になる
「…病院出てくるのか、アイツ」

そう言ってるのだけ、聞こえた


だけど
目の前に、トンと置かれた
巨大なチョコレートパフェ
それを見て
私の思考は、あっという間に
吹っ飛んでしまう


ホントのウェイターみたいに
ササッとアニキは
長いスプーンとそれを、私の前に置く

お腹が空いていたのとか
暑くてヤバイのとか
たくさんの信号が頭の中を巡って

最後までいつもは取っておく
てっぺんの生クリームから
食べてしまって
でもいいやとか思いながら
食べたい物から
とにかく、食べた




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