今宵も星雲
クリーム色に塗られた受付ロビーの壁はまだ塗料が真新しく、所々に光沢が見受けられた。
病院特有の消毒液の匂いはしないが、ビニールスリッパのゴムのような匂いが仄かに感じられる。
僕は売店でたらふく買ったアイスを脇に置き、ソファーに囲まれた一台のハイビジョンテレビを見る人達を眺めていた。誰もが抑え目のシックな服装であり、表情が堅かった。
小さな子供を連れた女性は、まるで世界の終わりを知っているかのような顔つきで、液晶に写るアナウンサーの顔を見ていた。皆そうだ。テレビの存在などないかのように、画面に目をやっていた。
ここにいる人達は、誰もが何かを抱えているんだと思う。それはとても不安定なもので、それはとても未完成なものだ。
ここの人達はその正体を探しているかもしれない。(探していないのかもしれない)
その答えはブラウン官の中にはあるはずがないのだけど、皆の視線は何かを求めているようだ。
僕はガラス製のテーブルに無造作に置かれた雑誌の中から一冊抜き取り、手にしてみた。マタニティ(妊婦)用のファッション雑誌だったので、すぐに戻した。
テレビの向こう側では実に軽快な音楽が流れていた。