その日の前夜~地球最後の24時間~
 しかしその結婚に後悔しているか否かは、今のひろみの表情を見れば一目瞭然であろう。

 その団欒に割り込んできたのは携帯の着信音だった。

 音から判断するとひろみの携帯のようだ。明日の花見のことだろうか等と疑いながら、テレビの上に放ってある携帯を手に取りフリップを開いた。

(え?)

 その着信番号は自衛隊本部の直属の上官からのものだ。休暇中に掛けてくるということは、そのほとんどが緊急任務の指令である。

 通常の自衛官ならば緊急任務と言えばその多くは災害救助によるものだ。

 しかしひろみの所属する部隊はいわゆる普通の部隊とは任務を異にする。多くは公安からの要請による、家族にすら言うことが出来ない非公式の工作任務なのである。

 人命救助を目指したひろみの意思に反して、血なまぐさい作戦が少なくなかった。

 傍らの夫と侑海から逃げるように廊下に出ると、暗鬱なため息をついて通話ボタンを押した。

「お待たせしました……」

 真っ先に明日の予定をキャンセルせねばならないのかとネガティブな思考に支配されたのだが、次の瞬間には首を傾げていた。
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