スリーズ・キーノート
暗い車の中に、信号の赤が入ってくる。それで止まっても、僕とイチさんは口を開こうとしなかった。いや、開けなかったんだ。
青が僕の顔を照らし、車が再び動き出す。住宅街の暖かい光を浴びた時、イチさんは観念したように言葉を紡ぎだした。
「……話、聞きに来たんだって?」
「はい。」
「ちっと、はえーんじゃねえのか。」
「あんまり、歳は関係ないかと。」
車を運転しているから、イチさんとは目も合わせられない。でもそれでいい。
車は住宅街を抜け、外れの河辺まで来た。土手は、街の人間がよく使う散歩道だ。だけど今は誰も通っていない。
対向車線から車が来ても邪魔にならないよう、イチさんは端に車を止めた。そして窓を明け、暗くても汚いと解る川を見る。
「レイから、俺達の事聞いたんだよな?」
「はい。」
「幻滅したか?」
「誰を?」
「……誰を、だろうな。」