中絶~僕は君を殺したい~
にげる
12‐1 中に出して



ぼくはあきの中で果てた。



あきはピクリとも動かない。



頭にうかんだ。



殺してしまったのかもしれない、と。



ぼんやりとしたいしきの中、ぼくはシャワーをあびた。



けんたいかんに包まれている。



ふしぎな気分だった。


みたされていた。



すべてが夢だったように思える。



身体をふいてからあきのいるベッドに戻る。


あきがそのままの形でいた。



ざわざわ、とむねの奥から



せなかから



ゆびさきから



はいあがってくる感覚。



首筋。



後頭部より少し下で脳に寒気がダイレクトに入ってくる。



ふるえがきた。



ぼくは何をした…?



あきをだきしめた。



「あき…?あき…」



ほおをたたいた。



「ねてるんだよな」



ぼくは名前を呼んだ。


あきから手をはなした。



こわくなった。



ころしたことじゃない。



あきがいなくなったことがこわかった。



一人にしないでくれ、と。



とっさに



部屋をみわたした。



すいみんやくが入ったビンが見えた。



手で払ってたおした。


くすりがバラバラとこぼれる。



床にはうようにくすりを食べていく。



あきに会いたい。



ひとつぶ口にふくむほどにあきに近付いていく気がした。



いくつか飲んだあとに台所へ走る。



水道に口をつけてくすりを飲み干した。



…はぁはぁ。



あきのとなりにすわる。



「…あき」



ゆっくりとほおを小さなむねにうずめる。



まぶたが閉じる前にあきの顔を見たかった。


目をあげるとあごが見えた。



丸いりんかくがイヤだ、と笑っていたあきを思い出す。



ぼくは好きだったよ。
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