君の手を繋いで

「あ、勇太君。こんにちは」

おばさんは俺に気付くと、顔を上げて力なく笑った。


「こんちは……おばさん、日向いねえの?」

おばさんの目の前に立って、挨拶もそこそこにたずねた。


「うん……今日は部活も何もないって言ってたし、他に出掛けるっていうのも聞いてなかったんだけど……」

おばさんは不安そうに言った。


「朝まではちゃんといたのよ? それでずっと部屋にいるのかと思ったら居ないし……靴がなくなってるから、外にいったんだと思うんだけど……あの子、携帯も持たずに出かけたみたいだから連絡もつかないのよ」


日向が、おばさんに何も言わずに出掛けるなんて……


「どうしたのかしらね、日向ちゃん……」

母さんも、不安そうだった。


二人とも、口には出さないけど、意識しているんだろう。

今日が、兄貴が一年前に死んだ日だってことを。


俺だって、気にしないわけなんてない。


よりにもよって、今日……日向がいなくなるなんて……

何だかいやな予感がする。


「勇太君、何か心当たりない? あの子が行きそうなところとか……それか、あの子の仲がいい子とかと連絡とれないかしら」

おばさんが祈るような目で俺をみてきた。

俺は何も答えずに、靴を履いた。


「勇太……?」

「探してくる。日向のこと」

「探すって……心当たりあるの?」

「ないけど、見つける。絶対に」


俺は、家を飛び出した。


母さんが俺を止めるように呼んだけれど、俺は振り返らなかった。



大丈夫。

俺は絶対に帰ってくるから。

日向と、一緒に。


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