この胸いっぱいの愛を。



「…よし、こんなものだろう」

将兄の声で我に返った私。

膝にはしっかりと、絆創膏が貼ってある。


「桃香、立てるか?」

「うん、大丈夫」


差し出された将兄の左手を、
しっかりと掴んで立ち上がる。

大きくて骨張っていて、男の子なんだなぁと改めて思わずにはいられない。

ところどころに見られる傷やマメは、
毎日過酷な練習をしている証。


「ちゃんと歩けるか?」

立ち上がっても、
将兄は私の手を離そうとしない。

「全然平気!!ほらっ」

私がその場でジャンプしてみせると、
ようやく手を離してくれた。


「将兄って、見かけに寄らず
 かなりの心配性だよね」

思ったことをそのまま口にすると、
将兄はフリーズしてしまった。


………やばい、怒らせた?




「っ、妹を心配するのは、
 兄として当然のことだろう」


───ほら、早く行くぞ。




私に背中を向け、返事を待たずにスタスタと歩きだす将兄。


「あ、待ってよ将兄!!」


……さっきの「間」は、何だったんだろ。

そんな疑問を抱えたまま、
私は将兄の後を追った。




.
< 13 / 196 >

この作品をシェア

pagetop