この胸いっぱいの愛を。
「なーんだ、残念だわ」
駿河先輩のお母さん、もといおばさんは、ハムスターの如く頬を膨らませた。
「せっかく真にも春が来たと思ったのに〜」
そう言いながら笑うおばさんは、やっぱり先輩にそっくりだ。
見た目も若いし、並んでても姉弟にしか見えないよ。
何歳なのか気になるけど……
それを聞くのはさすがに、失礼だよね。
「お袋、何度も言ってるけど俺には……」
「はいはい、わかってるわよ。
好きな人がいるんでしょ?」
おばさんが先輩の言葉を引き継いで言うと、先輩の顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
「わかってるなら変なこと言うなよ!」
……照れ隠しなのだろうか、先輩は真っ赤な顔を隠すようにして右手で覆うと、ドタバタと音を立てて行ってしまった。
「こら、もう少し静かに歩きなさい!」
「風呂入ってくる!!」
そう怒った口調で言うと、先輩はカバンを廊下に置いたまま、風呂場に行ってしまった。
玄関に取り残された、私とおばさん。
なんか、気まずいんだけど……
「まったく。
……あんなバカ息子だけど、仲良くしてやってね?」
遠慮がちに投げ掛けられたその言葉に、私は数度頷いた。
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