この胸いっぱいの愛を。
「え」
私は突然名前を呼ばれたことに驚いて、肩を震わせた。
私のことをフルネームで呼ぶのは、知る限りではあの人しかいない。
足を止めて振り返ると、記憶に新しいその人物が私に手を振っていた。
あまりに無邪気な笑顔だから、ついつい私も手を振り返しそうになって……
先輩だということを思い出し、慌てて手を元の位置に戻して、軽く会釈をする。
「あれ、部長と一緒じゃないんだ?」
私の隣に並んで歩きだす駿河先輩。
口から出たのは、今日だけで何回聞いたかわからないそのセリフ。
そんなに私達が一緒じゃないのが、珍しいんだろうか。
そう自問自答して、気付く。
─────私と将兄が、今までどれだけ沢山の時間を共有してきたかということに。
「おい、待てよ神田桃香!」
「えっ?」
先輩に腕を引っ張られ、私は転びそうになりながらもその場に踏み止まった。
その瞬間。
「!!」
大型トラックが、私達の目の前を凄いスピードで走り去っていった。
屋上にいた時と同じくらい強い風が、静まり返った道路を吹き抜けていく。
私、先輩に引き止められなかったら今頃……
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