この胸いっぱいの愛を。



───────………




体育倉庫付近には、まだ人はいないようだ。

やはり、少し早く来過ぎたか。


時計を見ると、指定された時間まではあと20分以上ある。




「壁打ちでもするか」


テニスバックからラケットとボールを取り出し、そのボールを地面で何度かバウンドさせる。

そして頭上に高く上げて思い切り打つ!




─────バシッ




力強い音が、誰もいない空間に響いた。

その音は規則正しいリズムを刻んで、壁には摩擦によって跡ができる。

同じ場所を目がけて、何度も何度も打ち込む。




───ボールを打っている時だけは、雑念を全て捨てることができるから。


無我夢中で、ボールを打ち続けていた。






………桃香は、無事家に着けただろうか。




そのことが一瞬頭を掠めた、次の瞬間。














「うおぉおおお!」




叫びとも唸りとも言えないような声が、耳をつんざく。


───────そして。




「な……………っ」




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