この胸いっぱいの愛を。
〜桃香side〜
「あ…………」
「ちょっとぉ何やってんのよ!」
手から離れたカップが床に落下して、破片が飛び散る。
「お客さま、大丈夫ですか!?」
店に入った時に席まで案内してくれた店員さんが飛んできて、すぐに粉々のカップを片付け始めた。
「すいません………」
なんだか申し訳なくて、私は何度も頭を下げた。
「いえいえ、気にしないでください。
それより、お怪我はありませんか?」
心配そうな顔で聞いてくる店員さんに、私はますます胸が痛んだ。
………どうしちゃったんだろ、私。
こんなことがないように、いっつも気を付けてるつもりだったんだけど。
やっぱり、マネージャーの仕事で疲れが溜まってるのかな。
「ホントに、ごめんなさい」
「お客様が謝ることじゃないですよ。
すぐ、新しいものをお持ちしますね」
それだけ言うと、片付けを終えた店員は店の奥に姿を消した。
「もうっ、ドジなんだから!」
「ったく、何やってんだよ(笑)」
「だ、大丈夫ですか?」
「…………ごめん、ボーッとしてた♪」
私はわざと気にしてないような素振りをして、誤魔化した。
確かに、疲れてたのかもしれない。
でも、なんとなくそれだけじゃないような気もした。
だって、カップが砕けた瞬間に、聞こえたような気がしたんだ。
─────私の名前を呼ぶ、将兄の声が。
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