アタシ
10分もしないでホテルに着いた。休憩5000円で、地元ではそこそこ良い値段。でも初ラブホテルがエンコーって…すごく複雑な気分だな、と思った。
 それでも部屋に入るとそんな気分はすっかり飛んでいった。大型液晶テレビに手の込んだ間接照明とそれに照らされたキングサイズのベット、そして大きな風呂。アタシはすっかりこの空間が気に入ってしまった。
 お互いシャワーに入り、輝はバスローブで身を包んだ姿でベットに入る。ソファーに座って下を向いているアタシに優しく、それこそ父親が子供を呼ぶような声で、
「ユミちゃんおいで。」
と言いながら手招きし、アタシは言われたままに横へ寝た。頭が痛むくらい心臓が激しく動く。たった30cmの距離。
「抱きしめてもいいかな?」
「はい…」
余りの緊張に敬語になる始末。輝はふっと鼻で笑うとアタシを優しく抱きしめた。
「やっぱり若い子の肌っていいね!俺の年代の女なんかよりピンッとしてる!!」
輝の発言はどうしても好きになれない。脳と口が直接繋がっているんじゃないか、って思うくらい何でも思ったことをはっきり言ってくる。
 それからはずっと天井を見ていた。何となく輝の動きに合わせて声を出してみたりして。輝は見た目の割りにそこそこ上手かった。実は輝が2人目だったのだけれど、ヤリ逃げした元彼なんかよりは、偽りかもしれないけど愛を感じることができた。愛、とはいっても親の愛、みたいな感じだったような気もしないわけでもなかった訳だが。
 そうこうしているうちに輝はイッた。さすがオヤジ、イクのが早い。耳元でぼそっと「ありがとう。」と輝の声。そっか、マグロ状態のアタシでも満足してくれたんだ。
 大して休みもしないで輝もアタシも服を着た。輝は笑顔で1万5000円をアタシに手渡した。
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