。☆゜星空゜☆。


3日の夜。静かなあたしの部屋にピッチの音が鳴り響いた。


着信――お兄ちゃん


あたしは急いで通話ボタンを押して電話に出た。


「はい」

「……な……ん?」


ピッチを左耳にあてたけど、なにを言っているのか聞きとれなかった。


「はい?お兄ちゃん?」

「……る……チャ……?」


あたしはピッチを右手に持ちかえて、もう1回聞き直した。


「流奈ちゃん?大丈夫?」


今度はハッキリと声が聞こえた。


「あ……、うん!」


あたしの耳……、もしかしておかしい?


大晦日に殴られてから、はじめて自分の耳の異変に気づいた。


「流奈ちゃん、明日のお通夜来てくれるよね?」


お通夜。その言葉を聞いただけで、胸が苦しくなり、一瞬黙りこんだ。


「流奈ちゃん?」

「行きます」


気がついたら、そう答えていた。


「よかった……。翼、きっと喜ぶよ。待ってるだろうから」


お兄ちゃんは時間と場所を告げた。


「明日ね!流奈ちゃん」

「はい……、明日……」
 

プープーと電話の音が鳴ったので、ピッチを左耳にあてた。


音は聞こえず、強く耳に押し当てた。


やっぱり……。


女たちに殴られて、左耳はほとんど聞こえなくなっていた。


けれど、そんなことよりも明日のお通夜のことに心は揺れた。


また現実を目の前にしなくちゃいけないようで、怖かった。
 

翼のお通夜?なんで翼なの?


考えるだけで震えが止まらなかった。






< 161 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop