*短編* それを「罪」と囁くならば
 




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思わず鼻歌を歌うくらいに、由奈は上機嫌だった。
《彼》と一緒にいられる夜は、すごく幸せを感じる。
《彼》の隣にいれば嫌なことも全部忘れられるのだ。
講義が終わったあと、由奈はすぐさま家へと帰った。
晩御飯の支度をするためにだ。
《彼》の好みは見ててたいていわかっていたが、作ると何でもおいしいと言って食べてくれる。
喜んでくれるから晩御飯を作ることが楽しくて仕方がなかった。


「今日は何しようかな……」


冷蔵庫の中を確認しながらメニューを考える。
すると卵とチキンを見て、即メニューを決めた。
材料を取り出し早速作り出す。
しかし、その時だった。


―プルルルッ


由奈の携帯が静かに鳴った。
携帯を取って見ると《彼》だった。
由奈はすぐに電話に出る。


「もしもし?」


『今日行かない』


「…え?」


電話に出た瞬間、《彼》の断りが入った。
突然とそしてあっさりと言われて、携帯を握る手の力が強くなる。
電話の向こうから聞こえる、女性の《彼》を呼ぶ声は気のせいではない。


「…うん、わかった」


了承の返事をすれば、すぐさま電話は切られた。
由奈の耳に機械的な音が虚しく響く。
静かに携帯を閉じるとストンと座り込んでしまう。
呆然と携帯を見てゆっくりとキッチンの方を見る。

…作りかけの料理。
《彼》がおいしいと言ってくれた中で、本当に一番おいしそうに食べてくれた、オムライス。




 
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