僕のどうしようもない出来事
 そして今、俺はハンバーグ(ライス・スープ付き)を平らげたところだ。

「川瀬さん、食べないの?さっきから紅茶しか飲んでないけど」

昼食がまだだと聞いて食事に誘ったのだが、川瀬は紅茶を2杯飲んでそれっきりだった。

「あんまり、お腹空いてないみたい」
「そう。なんか川瀬さんに気を使わせちゃった?」
「そんなこと無いよ。それより、その『川瀬さん』ってやめてくれないかな?何か、堅苦しくって・・・そう思わない?」

俺は一瞬考えた後、

「じゃあ・・・か、川瀬」
改まって、名前を呼ぶってのは結構恥ずかしい。
頭の中ならいくらでも呼べるのにな。

「うん!何だったら、『綾子』でもいいよ?」
「川瀬でいいよ!」

今度は咄嗟に答えた。
川瀬は「そう?」と答え、紅茶を一口飲み込んだ。
そして、フゥと息を吐き、

「もう一年しかないんだよね」

何が?総理大臣の任期か?

「来年の春にはもう卒業。私は転校してきて、すぐ卒業」
「やっぱり、前の学校に戻りたい?」
愚問だった。
後で絶対後悔する言葉を、俺は吐きかけてしまった。

店内で流れていた曲が、いつの間にかジャズから、曲調がすこし代わったがこれまたジャズが流れていた。
今は、ロックでも流してほしかった。

「私、転校ばっかりでさ。あんまり思い出とか無いんだよね・・・」


『俺が川瀬の思い出、今からいっぱい作ってやるよ!!』
そういうことを言いたかった

「いい事あるよ!!」
そんな言葉しか出なかった自分が情けなかった。
「うん。そうだよね」
川瀬の陰りのある笑顔が、余計に自分を情けなく感じさせた。


その後、俺達は些細な話をして店を出た。
川瀬の家は、俺の家の反対側らしいのですぐに別れた。
別れ際に、
「サブロー君、いい一年にしようね!」
陰りのない笑顔で彼女は言った。
「サブロー君、また明日!」

そんな川瀬の顔を頭から消えないように、俺は家に帰った。

強めの風が吹いた。
これから何かおこる。
そんなことを予感させる風だった・・・
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