ambivalence―アンビバレンス―
通学手段として電車を利用するのは初めてだった。
つまり、平日の通勤ラッシュ時の電車内が、どんな状況になるのか、甘く見ていた。

乗り込んだ瞬間から、私は学校のある2つ先の駅まで、吊革のお世話になることを余儀なくされた。誰が触っているか分からないその薄汚れた皮を、買ったばかりのハンカチをあてがってから掴む。心なしか湿った感触がした気がした。

電車とは、公共の乗り物であり、つまりは密閉された空間に育ちも価値観も違う他人が押し込まれるという、無法地帯のようなものであることを実感した。

汗臭いスーツ姿の中年男や、くちゃくちゃガムを噛んでいる学生、ゲーム機の効果音がチャラチャラとうるさい小学生。周りからの騒音や熱気が、渦を巻いてじわじわと首を締め付けてくるかのように、息苦しい。

こんなことならいつも通り、遅刻するか欠席すればよかった、と、この日に限って早く起きた自分に対し憤りを感じた。

窓の外を見れば、腹が立つくらいの快晴だ。

そこで、ふと気付いた。

今まで、入学式や卒業式の日に、こんなに晴れていたことがあっただろうか。

考えてみればいつも、雨が降ったり曇っていたりと、天候がすぐれていなかったために、遅刻やサボりの理由には事欠かなかった気がする。
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