俺のココ、あいてるけど。
 
「・・・・分かりました。じゃあ、お言葉に甘えます。お疲れさまでした。お先に失礼します」


だからあたしは、そう言って帰ることにした。


「あぁ、お疲れ」


その声は、あたしにはやっぱり冷たく聞こえた。





「・・・・うっ。ううっ・・・・」


更衣室に戻って誰もいないことを確認すると、どっと涙が溢れた。

一日中張り詰めていた緊張が解かれて、思わずポロポロとこぼれてしまったんだ。

これから1ヶ月も登坂さんの下で指導を受けなきゃならないんだ。

そう思うと、朝のやる気もどこかへ飛んで、ただ“怖い”という意識だけになった。


“まだ1日目、たった1日働いただけじゃない!”

“1ヶ月の新人指導が終わればただの社員同士じゃない!”

もう一人のあたしが、弱いあたしに喝を入れる。


───「社会に出たら泣き言なんか言っていられないんだぞ。自分の力で飯を食うんだ、未来はもっと強くなりなさい」

就職が決まったとき、お父さんにもそう言われていた。

そうだよね。あたし、もっと強くならなきゃ。
 

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