俺のココ、あいてるけど。
 
“社会の洗礼”・・・・なんて言葉は今のあたしには恐れ多いと思う。

だけど、そう思えば少し心が軽くなるのは嘘ではなかった。

あたしは、お父さんの言葉をしっかり胸に抱いて、さっと涙を拭いて更衣室を出た。


でも───・・。


ガチャッ・・・・と、登坂さん!


まさか開けたドアの向こうに誰かいたなんて知らなくて。

そこにいるとは思っていなかった人が急に目の前に現れて・・・・。

登坂さんと鉢合わせした瞬間、止めたはずの涙が出てしまった。


すぐに顔を隠して逃げるようにその場をあとにしたけど、登坂さんの顔は戸惑いの色が濃かった。

予期するはずもないあたしの涙を見て、明らかに・・・・。


「あたしのバカ!何かあったって思われちゃうじゃない!」


登坂さんから見えない位置にある植え込みの陰にしゃがみ込むと、あたしは顔をくしゃくしゃにして泣いた。

本当に自分が情けなかった。

こんなことくらいで簡単に泣いてしまう自分がたまらなく嫌い。


社会人1日目は、悔し涙のしょっぱい味がした・・・・。
 

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