俺のココ、あいてるけど。
 
「あの、登坂さん。その・・・・」

「ん?」

「えーっと・・・・」


お守りを渡す前まではハキハキしていた長澤なのに、とたんに歯切れが悪くなった。

ああ、麻紀のことだ。

ちゃんと後悔のないように別れてこれたか、それを聞きたいけど聞けない・・・・そんなところか。


「寒かっただろう? 車の中、まだ暖かいから乗って」

「・・・・はい」


どれくらい待ってくれていたか、だいたいの想像はつく。

わずかなヘッドライトの明かりの中でも、長澤の手は長時間待っていたことでかじかんで赤かった。

まずは暖をとらせるのが先決だったと、小走りに助手席に回る長澤に申し訳なく思う。


「おじゃまします」と律儀に言って、そろりと席に座る長澤。

せめて温風だけでもと思い、設定を『強』にした。


「本当だぁ。暖かいですね」


そう言って嬉しそうに笑う長澤のコートから、冬の匂いがする。

外はかなり冷えているようだ。


「悪いな、遅くなって。ちゃんと笑って別れられたから」

「いえ。よかったです」
 

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