ストロング・マン



私たちの周りだけがやけに静かで、別の空間にいるみたいだった。


「今日はとりあえず、帰ろうか。送る。」


修也の言葉にぱっと顔を上げる。今、送るって言ったよね?
今まで何かあっても一人でさっさと帰っていたくせに。


「送るって、修也があたしを?今までそんなことしたことないくせに。」


「それ以外何があるんだよ。
もう隠す必要なくなったから。」


目の前にいる男は本当に修也なんだろうか。これ以上一緒にいるのが恥ずかしくて、私は勝手に早歩きで歩き出す。
そんな私を見て修也がぷっと吹き出すのが後ろで聞こえた。こっちの気も知らないで余裕なやつだ。

私が早歩きだというのにあっという間に追いついてきた。こんな時に自分の足の短さが嫌になる。自慢したいのか、こら。


「そういえば、会社の先輩方から何か言われた?」


こっちはがつがつ歩いていて余裕がないのに、さらっとした口調で今一番触れられたくない部分をストレートについてきた。


「言われるに決まってるでしょ!」


先輩方にからかわれていることを思い出してつく口調が荒くなる。
打ち上げの翌日は最悪だった。お前いい男捕まえたな、とか俺はお前らがそんな感じだと思ってたよ、とか。
何がそんな感じだと思っていた、だ。そんなことないっていうのに外野ばっかり盛り上がっちゃって。
肝心な修也までこんなこと言い出すし。もう発狂したい気分だった。


それからもずっとそっけない私を修也は本当に家まで送ってくれた。
修也の終電の時間があるからいいと言ったのに譲ってくれなかった。



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